「バブル・ゲーム調書」
 (1992年、新潮社刊、1300円)

 企業が、人が土地と株に欲望をさらけだして狂い咲いたバブルとは一体、何だったのか、その本質はーーに真正面から向き合った小説。実在の事件と当事者をモデルに、膨大な調書をもとに、独自の調査を重ねて面白い読み物にもなっている。
 ここでは、作家の江波戸哲夫氏が朝日新聞読書欄(九二年11月22日付朝刊)で取り上げたコラムを紹介する。

 『大悪は大善に似たりという言葉の含意を時どき、考えこんでいることがある。  小説は魅力的な悪人を描かなくてはいけないとしみじみ思う。善悪をはるかに超えて、人々を引きつけてやまぬ巨大なブラックホールが、はたまた強烈な媚薬のような悪人を。
 そうでなくては、悪意を背中あわせにピタリとはりつけた小善たちの吐き出す毒ガスで、我われの生きている狭い世界を、ますます息苦しくしかねない。
 「バブル・ゲーム調書」には、大悪とまでいかない、ユーモラスな小悪、中悪がにぎやかに登場してくる。
 書名の通り、あの数年間の土地騰貴に目がくらみ、面白おかしく泡踊りを踊った奴らが主人公だ。

 不動産ブローカーのたまり場「夢企画」の社長、夢野洋。財閥系不動産会社「黒岩不動産」社長の黒岩万策。中堅不動産会社の課長でおやじがやくざの伊達真一。どいつもこいつも、あまり先の見通しの明るくない日々を送っていた。そこに、突如、政府主導の土地騰貴が始まる。彼らはこれにちっぽけな人生を賭けた。
 黒岩は土地転がしに手を染め、脱税するため夢野に架空領収書を切らせる。伊達も土地転がしに辣腕をふるい、たちまち取締役に成りあがる。お定まりのように黒岩は女を作り、家庭は崩壊。とどのつまり脱税で逮捕され、狂気の日々を静かに振り返るのである。

 大手新聞の記者である著者は、「土地を通じてうごめく人間のあくなき欲望の図」(あとがき)を描くのに、取材の成果をたっぷりと投入している。細部の描写もなかなかの芸達者で、小悪、中悪が愛らしく描けているのがなにより好ましい。  ただ、小エピソードの気の利いた展開だけでなく、全編を貫く太いストーリーの展開でもう少しハラハラさせてほしかった』

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